松山幸弘「コロナ禍と医療イノベーションの国際比較」
第4回「顔と心と体セミナー」講演録
2021年6月26日
参加者:36名(1級資格者3名、3級資格者8名、4級資格者5名、当会正会員10名、一般3名、招待7名)(会場3名、オンライン32名、DVD1名)
【経歴】
一般社団法人 キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹/経済博士
1953年福岡県生まれ。一般財団法人キヤノングローバル戦略研究所研究主幹・経済学博士。
豪州マッコーリー大学オーストラリア医療イノベーション研究所 名誉教授。
専門は世界各国の社会保障制度改革、医療産業政策で、医療、年金、雇用、教育、財政の観点からセーフティネットの研究を行っている。
【講演録】
ーはじめにー
事前に皆さんからいただいた質問は、非常に的確で、いい質問ばかりです。詳しい説明をする前に、簡単にお答えしておくと、以下のとおりです。
まず、重症者病床が東京や大阪などの大都市でも200とか300とか言われていますが、少な過ぎるのではないか?なぜもっと多くの病床を確保できないのか?
感染者が1万人とか2万人になったら、完全に東京と大阪の医療体制は崩壊すると思います。ただ、これを解決する方法は簡単で、税金でつくられている国立病院、自治体がもっている公立病院、国の補助を受けている国立大学附属病院の三つを地域で統合して役割分担することです。分担のポイントは、コロナの医療と通常医療をはっきり分けて、コロナ専門病院をつくってそこにコロナ対応を集中させることです。そうすれば、感染者がいま報告されている程度の数であれば、対応可能です。海外では、日本の10倍、20倍の感染者数でも対応できています。それは、地域のセーフティネットを担い、危機対応のラストリゾートである医療機関が多様な施設を備えたひとつの機関だからです。組織がひとつだから、経営者が即時の判断で役割分担を決められます。また職員も訓練されていますから、コロナのような危機が起きたときに自分達が引き受けるという心構えができています。そこが日本との大きな違いです。
海外の仕組みは、インテグレーテッド・ヘルスケア・ネットワーク(IHN)というものですが、これは、ひとつの地域で、急性期病院から慢性期病院、リハビリ施設、介護施設、在宅ケアに至るまで、すべてをひとつの事業体がもっているという仕組みです。そこに、他の民間病院や開業医がくっついています。そして、財源を握っている保険会社、もしくは財源を提供する国や州政府の財務部門がセーフティネットの医療提供機関と一体になっていて、利害の衝突がありません。コロナ対応でお金が必要であれば、そうした保険会社や公共の財務部門がお金を出すのは当たり前になっています。日本では、民間病院にコロナ病床をつくらせるために財政的なインセンティブを与えるべきというような議論がされていますが、そういう議論は海外ではありません。危機管理を担う医療事業体はインセンティブで動くのではなく、職員の使命感で動きます。それが当然というように訓練されているというのが、日本との大きな違いです。
それでは、海外のセーフティネットであるIHNと同じような仕組みを日本でつくるための鍵は何かということですが、法律上は既に整備されています。2016年に医療法を改正して「地域医療連携推進法人」という仕組みをつくりました。そのような法人は日本でいま26できていますが、海外と同じようなIHNの仕組みができあがっているのは、酒田市の日本海ヘルスケアネットだけです。また2018年には大学設置法を改正して、大学医学部が病院をもたなくていいという仕組みをつくりました。この狙いは、大学の附属病院を大学から切り離して地域のセーフティネットとの一体化を推進しようとするものです。しかし大学病院の切り離しは進んでいません。大学の先生方が既得権を失うのを恐れているからです。しかし、例えば、米国のピッツバーグ大学医学部では、1986年に3つの附属病院を切り離して民間病院として法人化し、現在では売上高2兆6,000億円の世界一の医療産業集積の巨大なネットワークになっています。日本では、制度はできても、実際の改革が進んでいないのです。
また、厚生労働省が2年程前、経営効率や機能分担で劣る数百の国公立病院や大学病院を公表して改革を促しました。厚労省としては、2016年の医療法改正を踏まえて、地域医療ネットワークを構想したのですが、地域は動こうとしません。問題は、自治体の公立病院がいわゆる「ハコモノ」で、そこに投入される税金に地方議員がアリのように群がって利権をむさぼるという構図ができており、これがなかなか崩せないことです。
日本のワクチン開発に関しては、いろいろと問題があって遅れているのですが、その理由のひとつは、大学の医学部や附属病院で、世界標準に届くようなレベルのものがないこと、また同様に、製薬会社も世界のレベルからみると実力が劣ることがあげられると思います。
【1.国際的にみた医療イノベーションのポイント】
今日の主な論点ですが、ひとつ目は、海外の国々に比べて感染者数で10分の1、20分の1という程度の日本で、なぜコロナ病床が確保できないのかということです。海外では感染爆発で一時的に制御できない時期もありましたが、それでもコロナ病床は確保できていました。結局日本では、危機管理を担うセーフティネット事業体の規模が小さ過ぎるという根本的な問題があるのです。
医療イノベーションというのは昨今世界中で議論されているテーマですが、そのキーワードはインテグレーションです。その具体的な内容はふたつあり、ひとつは、財源と医療提供体制の核になる事業体が一緒になっていること。もうひとつは、その核になる医療事業体は、単に急性期医療だけではなくて、介護施設や在宅ケアなども含めて、全部の機能を取り込んだ事業体であり、状況に応じて全体最適の観点から各機能に対して財源と人員を配置換えできることです。
こうしたインテグレーションを進めるために、米国では1994年頃から急速に改革を進めてきました。2000年以降、オーストラリア、英国、カナダなどがこれに追随しています。残念ながら日本はこの20年間何もやっていません。日本では医療のセーフティネットを担う国立病院や公立病院がバラバラで、ひとつひとつの規模が小さ過ぎます。東京大学附属病院でも年間の医療収入は500億円程度。海外では1兆2兆は当たり前、後に言及する米国のカイザーは10兆円です。そういう規模の医療事業体では、人材も開発力も全く次元が違います。
そして、デジタルヘルスです。今後、海外では、インターネットや情報共有の仕組みを使った医療が急速に進んでいきます。特に、新型コロナウイルス感染症の蔓延によって、世界中でオンライン診療が進みました。例えば、米国の大規模民間医療機関であるカイザーでは、2020年の一般診療の半分以上がオンラインになりました。それでもちゃんと患者のニーズに答えることができたことで、今後さらにオンライン診療へのシフトが進んでいきます。その結果、医療の質を維持しながら医療費(=病院収入)は減っていきます。個々の医療機関がバラバラに存在している日本では、この状況に耐えられません。ところが、海外のセーフティネットは財源部門である医療保険者と医療提供機関が一体になっていますから、医療コストが下がって医療提供機関の収入が減ることは、医療財源を提供する保険部門の支出が減って黒字が増えることにつながります。そこで、財源部門としては、追加のサービスを提供したり、保険料を値下げしたりすることができます。
また、デジタルヘルスの時代には、患者情報を共有するプラットフォームが基盤になりますが、日本にはまだその仕組みがありません。
【2.日本の医療提供体制の問題点】
図1に示されるのが、日米の医療資源の比較です。驚くべきことに、人口が米国よりはるかに少ない日本の方が病院数・病床数がかなり多いです。その結果、病院の規模は小さくなり、また医師数は同じくらいなので、ひとりの医師が診る病床が多くなり、患者へのケアは希薄になります。図2に示されるように、日本にはかなり多くの国公立病院があって多くの病床を備えているから、コロナに対して病床を確保することは容易なように見えます。にもかかわらず、日本のコロナ病床は今3万5千くらいで、さらに3万という政府の要請に対して応えられない状況にあります。なぜなのでしょうか?
いろいろな理由はありますが、ひとつには、国公立病院に対して国や都道府県・市区町村が指揮権をもっているのに、政治家がその権限を行使していないことです。例えば、厚生労働省管轄の国立病院140、労災病院32、JCHO 57病院と文部科学省管轄の国立大学附属47病院には、全部で113,046病床あります。
これらの病院の中からコロナ専門病院を選ぶことで、中等症以上の患者の病床を確保することができます。その権限を政府は行使していないのです。
また、各病院の責任者は、平時においては、医療の質と患者をめぐる近隣のライバル病院との競争という経営問題で頭が一杯です。彼らは、有事において、そうした近隣医療機関と協力し役割分担して、地域医療の全体最適を図るというようなことに考えが及びません。
海外では同じ医療圏にある国公立病院が既にひとつの事業体になっていて、平時から役割分担ができています。その違いがいまコロナ禍で出ているということです。
【3.日本の医療提供体制を改革するために必要なこと】
5月31日の日経新聞の特集記事「地域医療を立て直す」の中で私を含め4人の有識者が提言をしています。これをベースに、何をしなければならないかということを明らかにしていきたいと思います。
まず広島県知事の湯崎英彦氏が、「コロナ病床確保のために事前に各病院と調整して合意したが、実際に患者が増えたら機能しなかった」と言っています。平時にライバル関係にある医療機関に対して、有事に地域医療の全体最適のために協力を求めるというのは、無理があります。平時において日常業務で協力しているからこそ、有事にその協力関係が機能するのであって、有事になって急に協力しろと言われても現場の医療者は何をすればいいかもわからないという状況に陥るだけです。
また湯崎氏は、「何らかのインセンティブを与えないと医療機関の協力は得られない」と言っています。「経済的なインセンティブがないと医療機関は動かない」という論者は他にも多くいますが、これには同意できません。例えば、国公立病院は既に補助金と非課税優遇という大きなインセンティブを受けており、その国公立病院がこのコロナの時期に動かないのに、このうえどのようなインセンティブを与えるべきだと言うのでしょうか。医療機関が動けないのは、インセンティブがないからではなく、日常業務の中でチームを組んだこともない人達では、危機の時に動かないということなのです。
全日本病院協会会長の猪口雄二氏は、国の主導する「地域医療連携構想」のための各県の議論に関し、「病院団体や地元医師会の代表が議論しても、個々の病院が経営判断として急性期病床の転換に踏み切れなかった」と述べています。つまり、これは、同じ医療圏でライバル関係にある医療機関が議論しても、地域医療の全体最適を図れないことを示しています。平時においてさえこのような状態の地域の医療機関が、緊急時にチームを組めるとは思えないのです。
医療法人は非営利であるから、各病院は自己の利益を犠牲にしても地域に奉仕するのではないかという「幻想」があります。しかし「医療法人が非営利」ということ自体が誤りなのです。「医療法では医療法人は利益の配当ができないことになっているので非営利」と主張する業界人がいますが、医療法人の累積利益を給与の形で個人に支払うことにはまったく制限がありません。昭和元年(1925年)の大審院判例が「医療法人は蓄積した利益が最終的には設置者である医師に帰属するので非営利ではない」と判示しています。
医療界が自画自賛してきた、日本における医療へのフリーアクセス、つまり保険証さえあれば日本中どこでもどの病院でも医療が受けられるということですが、これもこのコロナ禍で「幻想」であることが暴露されました。例えば、私の母の主治医によれば、昨年秋の時点で、木更津市では93の診療所のうち発熱患者を受け入れてPCR検査を行うと表明したのは、3診療所しかありませんでした。私も千葉市からワクチン接種券がきたので予約しようとしたら電話がなかなかつながらず、漸くつながったら高齢者なのに9月と言われました。コロナ禍という一番医療が必要な時にアクセスできないのです。
医療コンサルタントとして大変有名な渡辺幸子氏は、コロナ患者の受け入れをスムーズに行うため「受け入れ先の空きベッド数などタイムリーな情報を共有する体制が必要だ」と言っています。日本にも建前上はそのような仕組みはありますが、全く機能していません。例えば、ニューヨークのひとつの民間医療ネットワークでは、23の急性期病院と830の診療所・介護施設・リハビリ施設をコンピュータで管理しており、患者の状況に応じて、どの施設に患者を保護するかを即時に決めています。このように、平時からセーフティネットを意識して動いている事業体には、有事だからといってインセンティブを与えなければならないということはないのです。
図3は東京都の重症者病床をもつ病院の数を示しています。東京都では360の病院がコロナ患者を受け入れていますが、驚くべきことに、各病院が実際に受け入れている患者数が0~4人ということです。海外ではコロナ専門病院とそうでない病院をはっきりと分けて、ひとつの専門病院で100~200の患者を受け入れます。その分、通常医療を他の病院に移します。このように機能分化して、コロナ対応を効率化させ、また院内感染を防ぐわけです。前述のように、医療事業体と財源部門が一体になっていますから、通常医療の移管によって支出が減少すれば、その分をコロナ対応につぎ込むことができます。
日本でもこのような事業体をつくることが法律上は可能になっています。国民健康保険や協会けんぽは県単位で運営する建前になっていますから、これを財源部門として地域の国公立病院・大学附属病院を統合すれば、同じような組織をつくることができます。残念ながら、まだ実現できていません。
また、通常医療を他の病院に移管するのではなく、患者を退院させて自宅での遠隔診療に変更することもできます。実際米国でそのようにしたところ、通常の急性期入院患者の30%は自宅での遠隔診療で十分な医療の質が確保できることがわかりました。このことから、今後は急性期の患者を在宅で遠隔診療するという仕組みがより一層進んでいくものと考えられます。ひとつの医療事業体の中に急性期病院もあれば在宅医療もありますから、入院による病院収入が減少しても、在宅医療で補えるわけです。
危機対応においては、国や政治家が主導権を握るべきだという議論がありますが、これにも同意できません。海外ではセーフティネット事業体の経営者と現場の人達が最初に動き始めます。例えば、ニューヨーク大学が設置者である医療ネットワークの責任者は、中国で1人の感染症患者が出たというニュースを聞いて、すぐに感染症対策のための医療機器やマスクの在庫を増やしました。その後の品不足や値上がりを見越した行動です。ピッツバーグ大学の医療ネットワークは2兆5000億円の大きな事業体ですが、その介護施設のトップは、同じ時期に、介護施設における高齢者の発熱管理のルールを変更し、37.2度で隔離を始めることにしました(それまでは37.8度)。その結果、ピッツバーグだけは高齢者施設の死亡率が低かったという事実があります。このように危機対応では、国や政治家ではなく、現場が先に動くというのが重要なのです。
いま医学は飛躍的に進歩しています。いろいろな病気のことが解明できて、一方では入院治療の期間が著しく短縮され、他方では長寿化によって慢性病への対応が必要となっています。つまり、疾病構造が変化し、地域住民の医療ニーズが多様化し、ひとつの病院だけではこれに応えることができなくなり、急性期医療だけでなく介護やリハビリを含めた多様なサービスを提供するひとつの事業体が必要になってきているわけです。また、財源部門と医療提供機関の統合も不可欠です。医療体制は、ピーター・ドラッカーが1990年頃に指摘したとおり、経営するのが一番難しい「超複雑系」になっています。その中で全体最適を図るための人材を育成することが最も重要な課題です。他国では、この20~30年をかけて、そうした人材育成に注力してきました。日本はこの点でも遅れをとっています。
【4.国際的に見た日本の医療提供体制のポジション】
残念ながら、日本は医療の分野において、かなり世界に後れを取っています。
OECDが「医療情報が国全体としてどの程度ガバナンスできているのか」、「医療情報活用のインフラがどこまで整備できているのか」という点について、ランクづけを行ったところ、日本は最下位でした(図4)。
オンライン診療や医療情報の活用によって医療の質向上と医療費節約の仕組みをつくることを研究する目的で、WHOと日本を含む30ヶ国が2018年にThe Global Digital Health Partnershipという団体を作りました。この団体が昨年、「市民が自己の診療記録にどの程度電子的にアクセスできるか」という評価の結果を発表しました。ここでも日本は最下位に近い位置にあります。米国、英国、オーストラリアなどに比べて、日本は20年遅れています。
もうひとつ日本が遅れているのが、ポピュレーションヘルスです。米国ではジェファーソン大学が2008年に米国初の専門学部を創設、今では全米の大学に広がっています。英国もキングスカレッジが2019年にポピュレーションヘルス研究所を設置しました。ポピュレーションヘルスとは、国民全体の健康を考えたとき、医療が果たしている役割は2割ぐらいしかなく、重要なのは、人々の日常の行動と社会的経済的ファクターの方であり、そこでの取り組みが国民全体の健康に大きなインパクトを与えるという考えです(図5)。これが今の世界の医療行政の大きなテーマなのですが、日本の大学でこれを研究しているところはひとつもありません。
【5.コロナ対応の国際比較】
コロナ禍を国際比較してみると、日本は人口1万人あたりの感染者数、死亡者数で他国よりも1ケタ少ない状態です(図6)。そして、病院数や病床数は突出して多いのに、コロナ病床を確保できないという矛盾を抱えています。今年3月に第4波に備えて政府がコロナ病床3万床の追加要請をしたにもかかわらず、5千床程度しか増えませんでした(図7)。
この結果、5月12日時点で自宅待機者が3万人を超え、特にその数の多かった大阪では自宅で死亡する患者が続出しました(図8)。
コロナ対応の成功例をひとつ取り上げましょう。長野県松本市の取り組みです。
まず、松本市長がその傘下にある市立病院で中等症の患者を可能な限り引き受けることを宣言し、他の病院に協力を求めました。これに対して、国立病院と信州大学附属病院が重症患者を受け入れることに同意し、赤十字病院や他の社会医療法人も中等症患者の受け入れに協力することになりました(図9)。
しかし、海外のIHNではこのような市長を中心とする調整は必要ありません。なぜなら、この図に出てくるような病院がはじめからひとつの事業体となっているからです。しかもその規模は松本市の10倍20倍です。だから、1ケタ多い感染者数に対しても迅速かつ効率的に対応できるわけです。
海外のIHNのコロナ対応の実例をいくつか見てみましょう。
米国カリフォルニア州のカイザー(図10)は、自社の保険加入者のみが診療を受けられるという医療機関です。保険会社と医療機関が一体化しており、そのために医療の提供だけでなく、予防にも力を入れています。
医療情報の活用に関しては世界トップ評価であり、英国、カナダ、オーストラリアなどが目標にするほどです。コロナ禍が始まった昨年4月に本部近くに1日1万件のPCR検査ができる施設をつくりました。昨年だけで480万件の検査をしています。職員数が30万人ですから、危機管理のために必要な人員は自前で調達でき、また職員も危機対応のために十分訓練されており、即応態勢をとることができます。
英国イングランドは人口が5,629万人ですが、これを図11の仕組みでカバーしています。NHS Trustsとか、NHS Foundation Trustsは日本 英国イングランドは人口が5,629万人ですが、これを図11の仕組みでカバーしています。NHS Trustsとか、NHS Foundation Trustsは日本の国公立病院、約1,300あるプライマリーケアネットワークは診療所です。これらが財源部門と一体となって運営されています
人口442万人のカナダのアルバータ州(図12)は、職員数10万の公的医療事業体によってカバーされています。病院数100超、病床は3万以上ありますから、コロナ病床の確保は患者数の変化に応じて随時決めることができます。
ニューヨーク市を見てみましょう。ニューヨークには6つの大きなIHNがあって、そのうちのひとつが市の公立病院を中心とするグループです。年間50万人もの無保険者の診療を行っていますから、かなりの額の税金がつぎ込まれていると言えます。PCR検査は1日5万件の能力があります。民間IHNで活躍したのはノースウェルヘルスです(図13)。病院数は23ですが、病院以外の拠点が830あり、コンピュータ管理によって患者の症状レベルに応じてどこでケアするかを即時に決めることができます。
ノースウェルヘルスの財務内容をみると、金融資産だけで84億ドル、約9,200億円あります。コロナ対策のために1,000億円かかるとしても、自力で調達できます。だからインセンティブがあるかどうかなどということは問題ではありません。危機対応が優先されるわけです。なお、2020年には連邦政府からのコロナ対策補助金が1,400億円入っています。
これら海外のIHNの詳しい内容は、「コロナ禍の医療イノベーションの国際比較」という6つの論文に記述しました。キヤノングローバル戦略研究所のホームページの以下のURLに掲載しています。ご参照願えれば幸いです。
https://cigs.canon/coverstory/202101_01.html
ご清聴ありがとうございました。