百武朋「傷を作るメイク」
第1回「顔と心と体セミナー」講演録
2020年10月5日
参加者:37名(会場8名、オンライン29名)(1級資格者4名、3級資格者8名、4級資格者7名、当会正会員12名、一般5名、顧問1名)
【経歴】
1972年、岩手県生まれ。キャラクターデザイナー・特殊メイク・特殊造形師。日活映画芸術学院で映画美術を学び、2004 年に株式会社百武スタジオ設立。
主な参加作品は、「CASSHERN」(2004年)、「20世紀少年」(2008年)、「シン・ゴジラ」(2016年)「東京喰種」(2017年)、「鋼の錬金術師」(2017年)、「犬鳴村」(2020年)など多数。
【講演録】
特殊メイク・特殊造形・キャラクターデザイナーの百武朋先生をお迎えして、多くの映像作品などのために制作された特殊メイクの事例を写真で見ながら、その仕事内容をご紹介いただきました。また、会場でモデルの手に傷を作るメイクを実演していただきました。
この講演録では、講演において投影した写真のほとんどを複写できないため(著作権・肖像権の関係)、百武先生のお話の要点のみを取り上げております。
1.映像作品における傷メイク
『樹海村』『刀剣乱舞』『進撃の巨人』『ヤクザと家族』『ミュージアム』『犬鳴村』『東京喰種』などの映像作品において制作した傷メイクの実例を写真によって紹介した。
傷メイクの作り方として、次のようなポイントが紹介された。
・傷メイクを作るには、まず美容テープを貼り、その上に特殊メイク用の塗料を使って傷を描い ていく。美容テープを使うようになる前は、肌の弱い役者さんなどは肌が荒れたり、かぶれたりすることもあり、メイクをする時に様々な工夫が必要だった。
テープを使うようになってからは、直接特殊な塗料を塗らないため、肌の特に弱い俳優の場合、肌が守られるようになり、特殊メイクの幅が広がったと言える。
・傷メイクは、監督や演出部と相談しながら、ドラマで必要な傷のデザインを作り上げていく。
・傷メイクをする場合、それがいつ頃できた傷なのかを考慮しながら作っていく。ひとつの映像作品の中では、同じ傷でも、できたばかりのものと、できてから数年経っているものをそれぞれ別物として作ることがあるので、その区別は重要である。
・メイクした傷をつけてアクションをするときなどは、傷メイクのうえからもう一度、美容テープを貼って、撮影中に崩れたりすることがないようにする。
・本物らしい傷を作ることや観客を驚かすようなものを作ることも大事だが、同時に、演出が決まり次第、俳優の顔や雰囲気、役柄などを考慮して、どのような傷にしたら、その俳優がよりドラマに合い、格好よく見えるか、如何にしたらその俳優のテンションが上がり、役柄に入りやすくなるかなどのことも考慮に入れて傷をデザインする。
2.「傷を作るメイク」実演
次に、会場スタッフをモデルにして、その手に傷メイクを施した。美容テープの上から特殊パテで傷を作り、最後に血糊を付けた。血糊は傷メイクを本物らしく見せるが、動くと赤い色があちこちに付いてしまうので、ハロウィンなどのイベントの場合にはあまり向かない。メイクを落とすときは、テープをはがすと全部とれるので便利である。
3.傷以外の特殊メイク
傷以外の特殊メイクの実例が写真によって紹介された。尖った耳、羽根の生えた頭、油性のドーランの上からポスターカラーを塗って作った肌のクラッキング(ひび割れ)、シザーハンズ、各種のマスクや特殊なスーツやユニフォームなどの衣装、王(オー)蟲(ム)の模型(『風の谷のナウシカ』に登場する節足動物様の架空の生き物)、千手観音のように背中に背負う多数の手の模型、模型の頭を2つ付けた三面観音、妖怪の衣装(NHK BSプレミアム『大江戸もののけ物語』で使われたもの)などが紹介された。
これらの特殊メイクに関しては、次のようなポイントが紹介された。
・マスクについては、いかに俳優の顔が美しく見えるかを考えて、顔との角度を工夫している。
・材料は大体シリコン、プラスティックとゴムだが、それだけだと造形物の深みが出ないため、と
ころどころに鉛、合成皮革、花弁、金などの本物を使う。
・特殊衣装などは、俳優の体をスキャニングしてその素体に造形を施し、俳優の体を動かしやすく、かつ綺麗に作り上げる。
・地肌の部分とメイクの部分の繋ぎ目や衣装と衣装の繋ぎ目が分からないように、いろいろな工夫を凝らす。
・テクスチャーを出すために、発泡スチロールで作った型の表面に、ハンダごてでひとつひとつ跡をつけていくこともある。
最後にこの日の講演のために制作された特殊デザインが紹介された。(写真)